第12回名画鑑賞会『大地のうた』

第12回名画鑑賞会  

『大地のうた』
(監督:サタジット・レイ) 1955年/インド

インドは製作本数からだけいえばアメリカ、日本と並んで世界の三大映画大国である。しかし、その大部分は『踊るマハラジャ』に象徴されるようなインド独特のミュージカル映画で、文芸作品としての国際的知名度は余り知られていない。

そうしたなかで、インドから初めて世界に第一級の芸術家として認められたのがサタジット・レイである。一言、『大地のうた』はまれに見る秀作である。この映画を見れば彼が、疑いもなくわが溝口健二や小津安二郎と比肩しうるアジアの巨匠であることを誰しもが納得するはずだ。

私論であるが禅問答的な言い方をすれば、音楽とは音ではなく「静寂」(サイレンス)を奏でること。絵画とは対象物ではなく「余白」(空間)を描くことにある。同じく色彩を論ずるなら、「白黒」(モノクロ)のなかにこそ真の色彩があるとも。

今回、主権回復を目指す会の名画鑑賞会が上映する『大地のうた』(監督:サタジット・レイ)はフイルム事情、その処理技術も十分でなかった時代、画面も相当粗い白黒映画である。

映画はインドの貧しい人々の生活を背景に、姉と弟の幼児期の思い出につながる感慨を主題にしているが、決して、貧困をエキゾチックな好奇心の対象とした安物ではない。

姉に連れられて遠い原野の彼方に汽車を見に行く不安と心の高揚、背丈を覆う草草。大雨が降る直前の沼の静寂、水面を走る水すましと波紋。

死んだ姉が金持ちの子から盗んだ首飾りを幼い弟が見つけ、姉の名誉のために葬儀の直前、それを沼に捨てる。水面を覆っていた水草が丸く輪を開き、ゆっくりと静かに環を閉じる。風景がそのまま人物の心理を描写する圧巻のシーン、白黒のなかに眩いばかりの色彩が乱舞するシーンである。

色彩という感覚を排除するからこそ到達できる表現であり、故に、白黒のなかにこそ真の色彩があると。カラーでは撮れない、白黒でしか撮れない色彩を私たちに示してくれるのだ。同じアジアの同胞として、サタジット・レイ監督に心からの敬意を表したいのである。

      1956年第9回カンヌ映画祭特別賞(人間的記録映画賞)受賞作品
      劇場公開(東和=ATG)1966年10月11日
      脚本:サタジット・レイ、撮影:スブラタ・ミットラ、
      音楽:ラビ・シャンカール

 日時:4月20日(日)
    17:40開場 18:00上映開始
 
 場所:神保町区民館

     (千代田区神田神保町2-40 03-3263-0741)
  地図:http://www.city.chiyoda.lg.jp/shisetsu/kuyakusho/007.html
  アクセス:JR都営三田線水道橋駅から徒歩10分、
       東京メトロ半蔵門線・都営三田線・新宿線神保町駅から徒歩5分

  会場負担金:500円(任意)
  主催:主権回復を目指す会 ◆連絡:西村(090-2756-8794)


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