立憲主義を否定された天皇陛下と勅命に屈服した総理大臣

立憲主義を否定された天皇陛下と勅命に屈服した総理大臣

(酒井信彦・元東大史料編纂所教授)

『月刊日本』2018年1月号 酒井信彦の偽善主義を斬る 2017年12月22日

http://sakainobuhiko.com/2017/12/post-315.html

※なお、見出し小見出しは主権回復を目指す会による。
『月刊日本』の題は「勅命に屈服した総理大臣」です。

【天皇陛下が否定された立憲主義】

12月1日に皇室会議が開催されて、天皇陛下の退位が平成31年4月30日で、翌5月1日が新天皇即位・改元という国家の重大事が、事実上決定した。翌12月2日の各紙朝刊には、大々的に報じられた。

それらの記事を目にして改めて思わされたことは、「退位の意向をにじませた、昨年8月のお言葉」という表現の空々しさである。意向をにじませたどころか、退位を求められたのであり、しかも期限まで限って要求されたわけであるから、これは明らかな勅命に他ならない。

これは疑問の余地のない皇室典範および憲法に対する違反であって、すなわち立憲主義なるものは、真っ向から天皇陛下によって否定されたわけである。ところが立憲主義を名目として、安保法制に大反対していた人々は、それを簡単に容認してしまった。かえって異論を唱えたのは、いわゆる保守の人々であった。つまり安保法制に反対して人々の唱えた立憲主義は、本気でなかったことが、見事に証明されてしまった。

【一代限り退位の経緯】

とこれで退位・即位が決定してみると、いままでぼやかされていた、この件を巡る経緯がようやく明確に指摘されるようになった。産経の2日朝刊一面の見出しには、「官邸と皇室・宮内庁 静かなる攻防」とあり、「攻防」なるものを、比較的地味に解説している。さらに同日の朝日の「象徴天皇のあり方 深まらぬ議論」という記事では、それをもっとあからさまに説明している。

曰く「天皇陛下が80歳を区切りに退位したいと打ち明けたのは、2010年7月22日夜。宮内庁長官や侍従長、参与らが集まる参与会議の場だった。(中略)しかしその意向が官邸にもたらされたのは、参与会議から5年も経った15年秋。安倍政権は退位に強い難色を示し、公務の縮小や皇太子さまが国事行為を代行する摂政を置くなどの回避策を探った」。

続けて「そうした中、昨年7月のNHK報道をきっかけに天皇陛下の退位の意向が明らかになると、国民の支持が一気に広がった。天皇陛下は翌月の『おことば』で、政権が検討した公務の縮小と摂政を否定。朝日新聞の世論調査では退位賛成が91%に達した。首相周辺は『天皇に弓を引く政権だとなれば内閣が倒れかねない』と漏らし、一代限りで退位を認める特例法整備へ動かざるを得なくなった」。

【主権在民ではなく天皇主権】

同じ2日の朝日のオピニオン欄の「天皇と政治」というインタビュー記事の中で、有識者会議の座長代理を務めた御厨貴は、その立場で分かったのは「今回のプロセスを通じて、官邸と宮内庁が一貫して熾烈なたたかいを続けていた、ということでした。それは極めて政治的なバトルでした」と言っている。しかし、「攻防」と言い「たたかい」と言い、「バトル」と言い、それは官邸と宮内庁の間で展開されたというより、安倍首相と天皇陛下の間で、展開されたものである。総理大臣が、天皇陛下の勅命に屈服したわけだから、明らかに主権在民ではなく、天皇主権であると言わざるを得ない。これは明治時代をさらに上まわる状態である。先の産経の記事には、「旧皇室典範策定時、明治天皇は譲位を可能とするよう望んだが、初代首相だった伊藤博文は一蹴した」とある。

また御厨は「メディアが大きな役割を果たしたことも今回の特徴でした。(中略)ご意向がメディアを通じて一気に広がり、事は急を要することになりました。国は国民の理解を背景に、一瀉千里に結論を出す必要が生じました」という。

【総理を屈服させた勅命を支持する朝日新聞】】

要するに今回の退位問題は、世論調査の結果によって決められたわけであり、その世論を作り出すのは、メディア以外の何ものでもない。そもそも朝日新聞は以前から、「平成流」と称して、現天皇の言動を称賛する傾向が顕著であり、朝刊に長期にわたって連載している、「てんでんこ」「皇室と震災」は、その代表的なものである。その上に朝日新聞は、安倍首相が憎らしくて仕方がないのであるから、首相と天皇のバトルにおいて、完全に天皇側に立った報道を展開したわけであり、それは絶大な成果を収めたと言えるだろう。

【加速化する皇室の終焉】

ただし今回の退位問題が、日本の将来のために幸いするとは、私はとても考えられない。天皇陛下自ら、皇室典範や憲法をないがしろにし、それが容認されているようでは、日本の歴史に大きな禍根を残したことになる。私個人としては、平成の時代になって、皇室は次第に終焉に向かって進行しているように感じていたが、今回の問題によって、それが一段と加速されたと思われる。皇室の重大事が、国民投票ですらなく、単なる世論調査で決まってしまうのなら、皇室自体の存廃問題も、世論調査の結果によって、決まってしまうことになるのであるから。

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 ◆参考:【退位特例法は憲法違反だ】(酒井信彦)
   http://sakainobuhiko.com/2017/07/post-308.html
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■酒井信彦(さかい・のぶひこ) 元東京大学教授。1943年、神奈川県生まれ。70年3月、東大大学院人文科学研究科修士課程修了。同年4月、東大史料編纂所に勤務し、「大日本史料」(11編・10編)の編纂に従事する一方、アジアの民族問題などを中心に研究する。2006年3月、定年退職。現在、新聞や月刊誌で記事やコラムを執筆する。著書に「虐日偽善に狂う朝日新聞」(日新報道)など。


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