北「ICBM発射」と「水爆実験成功」は何を意味するか

北「ICBM発射」と「水爆実験成功」は何を意味するか

核の独占(NPT体制)を打ち破った
北朝鮮の民族主義

【エンドレス・テープと化した安倍首相】

防衛省は北朝鮮による6回目の核実験(水爆)について、爆発規模が広島型原爆の10倍規模に相当すると発表した。ちなみに昭和20年8月6日、広島に投下された被害は死者14万人といわれ、都市そのものも完全に破壊された。

北の立て続けに挑発する「ICBM発射」と「水爆実験成功」に、安倍首相は「(北朝鮮へ)日米韓の緊密な連携でさらに圧力を加える」との必要性を強調するが、具体的な実効性ある圧力とは何かに言及することはなかった。これまで同様、さらなる「圧力」という毎度おなじみの、ゴミ回収のエンドレス・テープを聞かされる思いだ。

【軍事の主体なき自衛隊】

安倍首相の「関係各国と緊密な連携でさらなる圧力」を繰り返しとは、北朝鮮の核戦略に対抗する独自の戦略・戦術の皆無を、つまり在るべき主権国家として、為す術のない現実を露呈したのである。戦後72年、未だ戦勝国の軍隊が日本国内に10数カ所もの軍事基地を張り巡らしている。「日米安保条約」「日米地位協定」の名の下に、国家主権が我が物顔に米国によって蹂躙されている現実。自衛隊は対米従属国家の故、国軍に相応しい独自の軍事行動が何一つ選択できない。軍隊の体をなさない「名ばかり軍隊」の実態を示すばかりである。

日本政府は日米外務・防衛担当閣僚会議(2+2)を受けて、新たに北の弾道ミサイル迎撃の防衛システムとして米国の地対空ミサイル「イージス・アショア」の関連経費を来年度の防衛経費に計上した。二カ所の設置で計1600億円、さらに既存・新造のイージス艦を弾道ミサイル対応艦にするための諸費用は6400億円に達している。
防衛省が明らかにした米軍再編関連経費などを含め来年度の防衛予算は、2・5%増と過去最大の要求となっている。米国が「2+2」で、日本に求めるミサイル防衛予算は、天井知らずの様相を呈して呆れるばかりである。

【米国政府を潤す日本の兵器輸入】

因みに迎撃ミサイルシステムを始めとした兵器はほぼ米国製である。ところが、これら米国製兵器は対外有償軍事援助(FMS)という米国独自の売買方式で、米国政府が日本政府に売却する形を取る。

その方式とは米国の武器輸出管理法に基づく。
① 契約価格並び納期は見積もりより、米国政府はこの見積もりに拘束されない。
② 代金の決済は前払い。
③ 米国政府は自国の国益を優先し、状況の推移によって一方的に契約の解除が出来る。

売り手と買い手の互恵関係を全く無視した形態で、購入する日本側が極端に不利な契約となっているが、それを敢えて飲み込み、米国の押し売りを拒否できないのが日本だ。

日本は良いように米国の金づるに成り下がっているばかりか、兵器の輸入を通して自衛隊を米国の従属化に組み入れる強化を図っている。安倍首相や保守派が宣(のたま)う日米同盟の強化とは、対米従属の深化に他ならず、主権の喪失を促しているだけだ。

【役立たずを実証した迎撃体制】

29日早朝、北の弾道ミサイルが日本列島上空を通過した。同時刻帯、在日米軍司令部と航空自衛隊航空司令部のある横田基地では、北のミサイル迎撃訓練の直前だった。しかしながら、米軍も自衛隊も上空を通過するミサイルを迎撃せず見上げるばかりだった。

この醜態に、前原弘昭司令官(空自総隊)は「まさか本日、北朝鮮にミサイルを撃たれるとは全く予期していなかった」と釈明ならぬ言い訳を語ったが、米軍は黙り込んでいる。役立たずの迎撃ミサイルシステムに、巨額の血税・防衛予算が米国政府に流れ込む主権喪失に無念を感じてならない。

【国家主権と軍事の掌握は一体である】

ここでは「北の暴走」をオウム返しに糾弾するばかりではなく、なぜ、北が世界中の批判を無視し続けて、斯くもミサイルと核開発にこだわり続けるのか。そして、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と言う国家とは何か。これこそ真に思考を集中するべき核心であって、日本の今ある姿と、あるべき方向を考える原点があると思うのである。

では政治・統治形態の是非を抜きにして語れば、国家とは何かを考えて見たい。「国家とは暴力装置である」(マックス・ウェーバー、レーニン)は、使い古されたよく聞く言葉である。国家権力を形成する最高形態が軍隊である。軍事の掌握と主権は一体である。主権とは他国に干渉されない国家の統治権を言う。国家主権とは軍隊を掌握することに尽きる。「鉄砲から政権が生まれる」(毛沢東)とはこのことを指す。

【核武装で大国になったシナ】

1963年、シナは弾道ミサイルの発射実験に成功を収め、翌年行う原爆実験を前に、中国スポークスマンは、「たとえ百年かかっても、中国は原爆をつくる努力をする。中国はソ連指導者に向かって頭を下げることはしない。アメリカ帝国主義の核恫喝の前で土下座することもない」と述べた。同時期、中国政府・外交部長の陳毅は、「中国人はたとえズボンをはかなくても、核兵器をつくってみせる」と断言した。

シナは、米ソの覇権主義に対抗して民族の独立を守り、国家主権を確保するためには、「たとえ百年かかっても、ズボンをはかなくても」、自力更生でもって核武装を構築するとの決意を世界に向かって発信したのだ。

1964年10月16日、アジアで初開催の東京オリンピックで世界が湧いていたその最中に、お祝いの打ち上げ花火の如くシナは、初の核実験に踏み切り、成功させた。米ソ英仏につづく世界で5番目の核保有国となった。

当時、極貧状態にあったシナは、「大躍進」と称して農民の穀物を強制的に収奪してソ連などへ輸出し、核開発の費用に充てた。「中国人はたとえズボンをはかなくても」の結果は、約2000万人ともいわれる餓死者を出した。その白骨累々たる屍のうえに、現在の世界に冠たる軍事大国のシナが存在している。

核兵器を、「自国の独立を保障するためにもっとも重要な政策手段」と追求したシナの国家政策は、その歴史が示すとおり正しかったし、大成功であった。1972年2月、ニクソンとキッシンジャーが、極貧の共産中国を米国と対等の発言権を持つ大国として認め、米中政府間での国交樹立となった。核保有国のなせる技であった。

世に、「大躍進」は経済政策の失敗などと語るが学者もいるが、とんでもない勘違いと言っていい。ソ連の核の傘の庇護下で、シナが通常戦力の近代化に専念したところで、三流国家として最貧国のレベルを維持するのが関の山だったのではないか。

核を持つことで、チベットやウィグルの侵略、天安門事件の虐殺が世界からも不問にされるのが現実なのである。国家権力の最高形態は軍隊であり、その軍が圧倒的な存在を示す武器が核であり、これを所有することで国家主権は対外的には盤石となる。

【大国パキスタンと最貧国バングラディシュの違い】

その後、世界は米国主導の下で、米ソ英仏中以外の国家は核の所有を認めないとして、5カ国による核独占体制を敷いている。それが「核不拡散条約(NPT)」である。この不平等に反旗を翻したのがインド、パキスタン、イスラエルだ。

核を所有した以上、軍事的に如何に極貧国家といえ、超大国と対等の発言権をもつ国家として認知される。

パキスタンを例に取ろう。同国は元々領土としては、インドをはさみ東西に分かれていた。現在のバングラディシュは東に位置していて東パキスタンと呼ばれ、1971年にパキスタンから独立した。その後の両国の歩みは対照的で、パキスタンは核保有国(1998年に核実験成功)となり、バングラディシュはインドの核の傘に入り、非核国家として今でも最貧国の一つのままである。

パキスタンの核保有の動機は、第三次印パ紛争(1971年)でインドに徹底的に敗北した結果を受けてのことであった。それが、今や世界に発言権を持つ大国である。それは、世界からの圧力に負けず、「核不拡散条約(NPT)」体制を拒否した結果である。

【正鵠を射たプーチン大統領】

ロシアのプーチン大統領は4日、訪問先の北京で記者団にこう語っている。

「北朝鮮は雑草を食べることになったとしても、自国の安全が保障されない限り(核開発)の計画を止めない」

このプーチン大統領の指摘こそ、先に述べた1960年代にかけてシナが歩んだミサイル技術と核開発の道ではないか。今の北は、核武装を完成させ、大国となったシナが歩んだ道を、「雑草を食べることになったとしても」との同じ形で、その道を辿っているのである。

経済制裁などで困難を来しようが、餓死者を出そうが、「北朝鮮は雑草を食べる」ことも辞さないで核武装の計画を止めない、とするプーチン大統領の発言は実に正鵠を射ている。

北朝鮮の目的は雑草を食べても、「核不拡散条約(NPT)」体制を拒否して核保有国となり、国家と民族の独立を守ることにある。その結果が、米国を始めとした大国と、最貧国家と言われながらも対等の立場で交渉が出来るのである。シナ、インド、パキスタンはその道を歩み、今また、北朝鮮はその道を辿っている。

目的はあくまで米国に核保有の現実を認めさせることである。北の行動はレッドラインを決して越えない範囲での駆け引きで、戦争を目的にした好んでの「暴走」ではない。米国と北朝鮮での核問題は、北の「優位」で既に終結したといっては言い過ぎか。お互いのメンツを保った上で、いかに落とし所を探るかのギリギリの駆け引きに今は終始している。ワイドショーに出てはしゃぐ、芸人学者に踊らされてはならない。

【為す術の無い我が日本】

巨額の血税を米国政府に払う迎撃ミサイルだが、想定した訓練などと違い百発百中の万能を期待するなど空想に過ぎない。北朝鮮は短距離スカッドで八百発、日本全土を射程に収める中距離ノドンを約二百発所有し、すでに核弾頭を搭載する能力を備えたとされている。

これらを、同時に複数を発射したなら、米国でさえ手の施しようがない。迎撃ミサイルシステムなど無力と言っていい。米国西海岸の大都市複数と、日本の首都圏が北によって同時攻撃された場合、米国が最優先に迎撃するのが自国に発射されたミサイルであって、首都東京では決してない。

日本海に米空母を派遣、威力を誇示したとしても、北の核ミサイルの前には余りにも無力でしかない。米国がそれほどの危険を冒してまで、北朝鮮と事を構えるわけがない。

こうした状況で、「日米安保条約」「日米地位協定」など、何の役にも立たないのは園児でさえわかる自明の理(ことわり)である。

今の日本には具体的に為す術がないのである。実に無惨な有様だが、この現実を直視・受け入れなければ事は始まらず、その上で何が出来るかを、他国ではなく、日本の国益を最優先した具体的方策を探るしかない。これが主権を米国に奪われ、独立国家の体をなさない今の日本である。

【街頭演説会】檄!小異を捨て大同に
「日米地位協定」 の全面改定を

平成29年9月3日 有楽町マリオン前
(↓ 画像クリック拡大)

「日米地位協定」 の下で自衛隊は米軍の子飼いにしか過ぎない
(有楽町マリオン前 2017. 9.3)


日本人に対する最大のヘイトが「日米地位協定」で、最大の在日特権である(同)


【動画】 檄!小異を捨て大同に 「日米地位協定」 の全面改定を(有楽町マリオン前 2017. 9.3)


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 (酒井信彦 日新報道)

 著者・酒井信彦が朝日新聞に踊らされる日本人の精神構造を解く。

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