安倍首相の返還交渉を支持! 米国は日露の領土交渉に口出しするな |
四島でも二島でも領土の返還は国益に叶う
初めて北方領土を望む納沙布岬を訪れたのが、今から40年近く前の晩秋の頃であった。晴天であったが沖合に立つ白波は渚に押し寄せ、風がひゅるひゅる泣く寒々とした光景を思い出す。
領有の対峙を眼下に歯舞を海鳥のみが自由に飛び交ふ
漁師がコンブ取りに勤しむのどかな海辺の光景だが、沖合にはソ連の武装監視船が絶え間なく遊弋(ゆうよく)していて、地元民には慣れきった光景かも知れないが、初めて訪れた者には殺気立つ緊張感であり、一方的に線引きされた“国境”に強い憤りを覚えた。
そうした緊張感を余所にカモメなど海鳥は、遠望する歯舞や水晶島の島影を楽しげに行き来している。彼らの陽気な鳴き声と、納沙布岬(漁民)に銃口を構える武装船との対比が余りにもシュールで、この感じ方はその後、何回か当地を訪れても変わりはない。
硬直した日露間の領土交渉が安部首相とプーチン大統領との間で、「平和条約締結」を前提に八項目の対露経済協力など具体的な提案を明示する形で一気に進展を見せている。
しかし、この交渉を巡っては保守派、とりわけ産経新聞は安部首相の対応を「(米国という)真の同盟国の信頼を失う」(北海道大学名誉教授・木村汎 10月5日)とか、「平和条約は馬の前のニンジン」(新潟県立大学教授・袴田茂樹 10月3日)などと、交渉自体に否定的だ。「日米同盟」の固持を掲げる産経の面目躍如たる紙面である。
主権回復を目指す会は安倍政権に対して発足時から今日まで、慰安婦問題を筆頭に対シナ・朝鮮との歴史問題、対米自立問題では妥協しない批判を繰り返している。しかし、物事は是々非々に論ずべきである。積年の課題である北方四島に関しては大局にたった返還という実利であって、些末な目先の問題に拘泥するのではなく、国益に叶うプラグマティズムに徹すべきと考える。来る12月15日、山口県においてプーチン大統領と差しで領土交渉をする安部首相の心意気を断固として支持するものである。クリミア問題、経済不況のロシアの事情を斟酌すれば、またとない好機が日本に訪れている。
ましてや、米国の新大統領が来年一月まで不確定な時期に、米国の頭越しに展開するロシアとの領土交渉は、対米従属の日本にとって画期的な主権外交であり、これまであり得ない対米自立外交として高く評価する。ましてやプーチン大統領は選挙でも圧倒的な支持を集め、歴代指導者の中でもそのリーダーシップ振りは傑出している。今後、彼ほどの実力者が現れるとはいえず、領土交渉は一にも二にも決断を下せるリーダーを抜きに進展並びに落とし所は見いだせない。
こうした状況を省(かえり)みず、保守派が端から交渉そのものに恐れめいた“疑惑”で挑むのであれば、物事の進捗は望むべくもない。領土交渉という途轍もない難題は一方の思い通りに進むはずもないのが当然だ。会社の仕事でもそうだがたちの悪い社員ほど、出来ないとする否定期な事柄を山ほど挙げるが、出来るとする可能性には見事なまでに口を閉ざす。
「出来ない」理由を、したり顔で説教する社員がのさばる会社はいずれつぶれるのが世の倣(なら)いである。これは国家といえども例外ではない。「日米同盟」を盾に領土交渉に否定的な保守派言論人に、これら不良社員がどうしても重なってしまう。不良社員ほど変革・改革に反対し、現状に安住しては行動しないからだ。安住とは「日米同盟」という信仰を指す。
参考:【日米同盟を信奉する保守の奇っ怪! 〜 なぜ信頼する?日本 (同盟国) の主権を認めない米国を】(2012年9月24日)http://nipponism.net/wordpress/?p=18242
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この度の安倍政権が進める日露領土交渉は、硬直した「四島一括返還」などの非現実論を排除し、「二島返還」という両国が歩み寄る余地を残した交渉であり、これを強く支持するものである。両国の利益・思惑が錯綜する領土交渉が一気に解決するなどあり得ないからだ。
物事の前進・打開は全て段階的な進捗が前提である。古人が諭(さと)す「二兎を追う者は一兎をも得ず」を戒めとして、四島を追う結果が二島も得られない結末は国益に反するのは言うまでもないだろう。
「黒猫白猫論」ではないが、ネズミを捕る猫は良い猫に決まってる。飼い主が気にくわないといった理由で、隣人のネズミを捕る猫を駆除したら本末転倒である。四島だろうが二島だろうが、一般論で言えば奪われた領土を取り返すことは、仮に二島であっても国益反するなどあり得ない。領土の返還が良いことは論ずるまでもない。
そのためにも、先ず「二島返還」の目に見える具体論でもって進めるべきで、返還で得るロシアの利益が「損失」でないことを経済援助の形で示すことではないか。これが「出来る」ことなのである。
南シナ海でなりふり構わぬ軍拡を進めるシナに、米国の「抑止力」は全くの無力を呈している。いざという事態において、日本の安全保障は何も米国オンリーでないことを、「平和条約締結」でロシアに示すのが主権国家のあるべき姿ではないか。ロシアとの条約締結は、ある意味で対シナへの抑止力ともなりうるのであって、米国に日露の領土交渉に干渉するな!とのメッセージを突きつけてやればいい。
外交、取り分け領土交渉は形を変えた戦争である。交渉は軍事力がその背景にあるが、残念ながら「日米安保条約」のもとで、日本は米国の属国である。
しかし日本は世界に君臨する経済大国であるからして、ロシアが経済不況に陥っている今こそ、この経済力を「軍事力」に代わって交渉に駆使する好機である。ある意味、経済力は運用次第で軍事力に匹敵する“武器”となりうる。その武器を外交に行使するのは偏(ひとえ)に政治家である。その権限は、民主主義国家の日本では安倍・自民党政権に委ねられている。日露がしのぎを削る「落とし所」、妥協点をどこに見いだすのか、形を変えた領土交渉という戦争を日本国民は固唾をのんで見守るのである。
日本は北方四島の返還を求める道筋として、これまで以下三つの選択肢を掲げている。
① | 国際法と正義(ロシアの不法占領)にのっとった四島一括返還の要求。 |
② | 北方四島の北側に国境線を引くが、一定期間は露施政権を認めるという 「潜在的主権」の確認要求。 |
③ | 「色丹、歯舞の返還時期や方法」と「残る2島の帰属」を併せて協議する 「2島先行返還」(同時並行協議)。 |
プーチン大統領は平和条約締結と二島返還で幕引きする方向であるのは間違いなく、善し悪しはべつにしてロシアの国益に叶う分けだから至極当然で、それが外交たるものである。ロシアの事情から言っても、四島一括返還など余りに非現実的ある。
従って、返還交渉は基本的に②③の道筋のどれか、複数のシミュレーションの組み合わせで行うことになるだろう。そこに対露経済協力や北方領土での共同経済活動、四島の軍事的扱いといった要素も絡む複雑極まる交渉が想定される。
ここで、《「2島返還」実務協議のメリット 産経新聞モスクワ支局長・遠藤良介》(2016.10)を参考、引用する。
1990年代前半にロシア外務次官を務めた日本専門家のクナーゼ氏が、北方領土問題をめぐり、92年3月に自身が行った非公式提案について語っている。
その核心は、56年の日ソ共同宣言が「平和条約の締結後に引き渡す」としている色丹、歯舞の引き渡しや手続きについて、平和条約締結に先立って合意しておくことだった。具体的には、(1)色丹、歯舞の引き渡し方法に合意(2)平和条約の締結(3)色丹、歯舞の引き渡し(4)日露両国の環境が整ったら、残る2島である国後、択捉について協議する−との流れが想定されていた。 「領土を引き渡すという場合、その時期や不動産の所有権、島からの移住を希望する住民のことなど、膨大な技術的問題が伴う」。クナーゼ氏はこう指摘し、「色丹と歯舞の引き渡しを発表すれば、日露双方に大きな抗議が起き、具体論での合意が困難になる。平和条約締結前の協議によって、そうした事態を避けるのが目的だった。 |
以上、領土交渉とは「 膨大な技術的問題」を如何に処理、解決していくか、両国の利益・思惑が錯綜した想像を絶する困難が双方に課せられる。
交渉は巨大な建築プロジェクトに勝るとも劣らず、さらに互いの国益が絡まり、完成・成就した暁には後世の歴史に記される。奈良の大仏殿の如く民族の記念碑として。このプロジェクトを指揮・監督するのは安倍首相という国家のリーダーであって他の誰でもない。豊洲移転で責任のなすりあいを演じている、あの築地の市場長らと同じであってはならないのだ。
ここで思い出すのが、日露戦争の講和条約に全権大使で挑んで国家の命を果たした小村寿太郎だ。我々は彼とあの時代の指導者らのことなど、また条約締結の艱難辛苦を『ポーツマスの旗』(吉村 昭)の名著で知ることができる。
威勢のいい主戦論を排除し、脆弱な我が国力を認識した上で締結した外交交渉に、民衆の怒りが爆発して焼き討ち事件まで起きたが、戦争遂行能力を枯渇していた日本を、かろうじて敗北から首の皮一枚で救ったのである。彼の名と共に、このポーツマス条約はレガシー(遺産)として燦然と後世に輝いている。
時を経て今、舞台は米国のポーツマス市から山口県長門市に変わるが、安倍首相におかれては彼の小村寿太郎の心境でとプーチン大統領との交渉に望んでいただきたいと切に思うのである。
◀︎『虐日偽善に狂う朝日新聞―偏見と差別の朝日的思考と精神構造』 (酒井信彦 日新報道) 著者・酒井信彦が朝日新聞に踊らされる日本人の精神構造を解く。 |