奥日光初夏

緻密な生態系と日本人の精神構造
戦場ヶ原で、日光野アザミにつがいの蝶、短い夏を精一杯生きる
アンチ「水曜デモ」の合間を縫って、7月の半ばに気分転換で初夏の奥日光へ。

カラ松の新緑を見るため、前回、奥日光へ行ったのが6月、わずか一ヶ月そこらだが奥日光は、さ緑から濃厚な緑一色に染め上げられていた。

奥日光の戦場ヶ原は標高が約千四百㍍ほど、下界の酷暑を余所にそこは爽やかな別世界。東京から二時間弱の所に広大な湿原や森林が手つかずのまま存在する。貴重きわまりないこの大自然の美しさに触れられる喜びを噛みしめたい。

日本列島全体に通ずる特徴だが、わが国の自然はスケールとそのダイナミックさにおいて決して諸外国に引けを取らない。しかも、その広大な規模でありながら、動植物の生態系が単調でない。日本の自然は多彩で、きめ細かい所に最大の特徴がある。生態系が繊細、緻密なのである。

日本人が自らの文化伝統を語る際、こうしたきめ細かい自然の生態系の上に我々の精神構造が形成されている点を意識したいものである。

この繊細と緻密さだが、ある意味でガラス細工のような脆(もろ)さを内に秘めている。突き詰めて言えば、日本民族は一定の条件下で均衡状態が崩れた時、想定外の脆弱さを露呈してしまうのである。逆に単調は途轍もなくシンプルで強靱だとも言える。

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湯の湖(標高千四百七十㍍)、湖も心身も共に緑に染め上げられる色濃さ

奥日光初夏、男体山を背景にシモツケの花 戦場ヶ原を縦横する林道、
小鳥のさえずりと風の音だけの世界
カラ松の林とみやこ笹の群落、チリ一つ無い緑の絨毯
湯川下流付近、滝しぶきが霧となって
火照った体を冷やす
岩肌にオオヤマ苧環(おだまき)が
原生林に囲まれた中禅寺湖を遠望、標高差二百㍍を湯川の水流が中禅寺湖へ一気に落下する

存在の軽 (かろ) さに耐へて健気なる風に揺れ揺るオオヤマ苧環 (おだまき)

 ※ おだまき(別名 糸繰草 いとくりそう)の花言葉
          「必ず手に入れる」「断固として勝つ」
 ※ 『存在の耐えられない軽さ』(ミラン・クンデラ  集英社文庫)




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