“想定外”に浸る自衛隊

松島航空基地は敵機襲来ではなく津波で“全滅”した

「悔しい」で済まされない自衛隊の敗北


自衛隊は国軍である。国軍の使命は国家主権を365日、24時間に亘って守ることである。さらに災害時において、国民の生命・財産・安全を守ることだが、ただ単に守るのではなく、死守するのである。

死守とは自身の全存在を任務に捧げるを本分とする。したがって、思想信条の如何に関わらず、彼らは国家の命に従い、その本分とする任務を全うするのである。ここにこそ、国軍である自衛隊の全存在がある。全存在、つまり究極的に死をもって国家から与えられた使命を全うすることにこそ、自衛隊員の最高の名誉がある。(※関連記事『国軍とは何か』

したがって、戦争並びに与えられた任務の是非は別として、我々国民は自衛官に最高の敬意を払うことを心懸けている。

自衛隊員、彼らは民間ボランティアではない。我々国民が彼らに最高の敬意を払う由縁は、心身共に高度に、熾烈に鍛え上げられ戦闘プロ集団の矜持(きょうじ)に対してである。そうでなければ自衛隊は禄を喰(は)むだけの寄生集団と言われかねない。

有事にこそプロ集団としての本領を発揮する。とりわけ災害時は日頃の訓練の真価が問われる最高最大の舞台である。

この舞台で、震災地域の真ん真ん中に位置する自衛隊松島航空基地は、如何なる状況に遭遇、対処したか。マスコミから発信された情報を目にすると、自衛隊のあり方の根本が深刻に問われてくる。

下記は9月15日の新聞各社の報道である。

【津波被害の戦闘機12機処分 残り6機は修理800億円】
 http://www.asahi.com/national/update/0915/TKY201109150252.html

 防衛省は東日本大震災の津波で被災した航空自衛隊松島基地(宮城県)のF2戦闘機18機のうち12機について、修理は困難と判断し、処分する方針を決めた。残り6機は購入費よりも高い計約800億円をかけて修理して使う。

 防衛省によると、松島基地には約2メートルの津波が押し寄せ、18機のF2すべてが海水につかった。防衛省は修理できるかどうか見極めるため、136億円の予算を投じて分解調査を進めていた。

 この結果、12機は被害が大きく、使用を断念。使える部品などは取り出して、別の装備で再利用する。残る6機は修理可能だが、1機につき約130億円の修理費がかかるという。

F2は1機が100億円だ。12機が廃棄処分で1200億円、6機の修理費が800億、さらに調査費用が136億円で、計2136億円に達する。

しかし、この金額は軽く見積もっているのではないのか。

下記は震災直後(3月14日)、松島航空基地が津波で壊滅した新聞やテレビで報道されたもの。

松島基地で戦闘機など28機水没 被害は2千億円超も
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/03/14/kiji/K20110314000427970.html

 防衛省の折木良一統合幕僚長は14日、大津波で水没した航空自衛隊松島基地(宮城県東松島市)の被害状況を視察した。同基地ではF2戦闘機(1機約120億円)18機をはじめ、航空機計28機が水没。すべて使用できない場合は総額2千億円以上の被害となる。

 松島基地ではF2戦闘機1機の機首が滑走路横の建物に突っ込み、T4練習機2機も土砂ごと建物近くへ押し流されていた。「海水に漬かってしまった航空機は、おそらくすべて使えない」(防衛省幹部)とされ、折木氏らは状況を確認し、今後の対応を検討する。

 防衛省は年内に次期主力戦闘機(FX)を選定し、2015年度までに12機の調達を予定。しかし1個飛行隊分の戦闘機が丸ごと使用不能となれば防空態勢に穴が開くのは避けられず、計画の見直しを迫られそうだ。

総額にして2000億円を上回る国有財産が失われ、そして兵器としての使用が不能となった。救助を求める国民を助けることさえ出来なくなった。

2136億円にはT4練習機のほか、津波で使いものにならなくなった救援用ヘリなどが、どうしたことか省かれている。

もう一つ、下記はフジテレビの報道、笠井レポーターのインタビューに応えるのが松島基地第四航空団 司令部管理部 大泉裕人渉外室長だ。これが国民の生命・財産・安全を守ることを標榜する自衛隊員である。


◆映像

笠井:救難機が被災して救助に行けなかった?

大泉:地震が起きた時、一機でも飛んでれば、もしくは津波が起きたとき(救難機が)
   上空に飛んでれば、かなりの人をつり上げることが出来たと思うとですね。
   我々もそのためにいるわけなんですけど、非常にくやしいものがあったんで
   ・・・、すみません。

大泉:(津波が)想像を超えていました。屋根、建物の上に人がいるから助けてくれ
   と連絡があったが・・・、何もできないというくやしさがありました。

笠井:それって仕方がないことと思う、だって(津波は想定外だから)・・・・。

大泉渉外室長はベソをかきながら「一機でも飛んでいれば」とまるで他人事のように述べているが、これが国軍、自衛隊か 情けなさを通り過ぎ、怒りを抑えきれない。「飛んでいれば」ではなく、誰が飛ばすのか、飛ばすのは国軍の自衛隊だろう。大泉渉外室長は我々国民に救援ヘリを飛ばせと言うのか。常に「想定外」を想定し、有事に備えるのが国軍が自覚する使命ではないのか。松島航空基地司令官の責任はうやむやにしてはならない。それは二度と同じ失敗を繰り返さないためである。

災害とは戦争である。災害(敵は)いつ何時、何処から襲ってくるか分からない。松島航空基地は津波という敵機の襲撃で殲滅されたのである。

松島基地を津波が襲ったのは最短時間にしても、30分から40分は優にあったはずである。地震はレーダーではなく体感で全員が察知した。松島基地は津波のメッカである三陸一帯に隣接する地域、しかも海岸から数百㍍の場所に位置している。自衛隊は、地震即津波、即救援と動かなかった。航空機の津波からの待避行動を行わなかった。

この松島基地には、航空救難団(埼玉県入間市)に所属する全国10ヶ所に所在する救難隊のうちの1つ、松島救難隊がある。救難隊が救難時に、救難ヘリを津波から待避させることが出来なかった。救助を要請する国民の生命を助けられなかった。

http://www.mod.go.jp/asdf/matsushima/kyunan.html
松島救難隊は、航空救難団(埼玉県入間市)に所属する全国10ヶ所に所在する救難隊のうちの1つで、航空自衛隊松島基地(宮城県東松島市)にあります。
 主な任務として、事故航空機の搭乗員の捜索及び救助(救難業務)、国民の生命及び財産等を守るための災害派遣等があり、捜索機のU-125A、救助機のUH-60Jの2機種を運用して任務についています。

ここ松島基地は国民の生命・財産・安全を守る航空自衛隊の基地である。この基地が敵機(津波)の襲撃を前に、無防備のまま一機残らず撃滅された。

これが想定外で済む話なのか。敵機の襲撃が、「想像を超えた」( 大泉裕人渉外室長)から助けを求める国民を救出できなかったなど、言い訳にもならない。「すみません」( 同渉外室長)に開いた口が塞がらない。

この度の震災で任務に命を捧げたのは警察官ばかりではない。民間の消防隊員らが多くの命を失った、己の全存在をかけて国民の生命・財産・安全を死守するため、見事にその使命を果たしたのである。民間人らがである。

松島航空基地は戦闘以前に敵(津波)に敗北を喫したのだが、常日頃の精神の弛緩にあるのではないのか。ここで言う精神の弛緩とは、自衛隊は日常的に戦争を「想定外」に訓練しているのではないのか。津波のメッカ、三陸沖に“配置”された敵部隊、津波を一考だにしてこなかった。国軍の体を為さない無惨な敗北であった。

敗戦に関して責任を問わないのは、防衛省と自衛隊が旧日本軍から引き継ぐこれも“伝統”かも知れないが・・・。

第4航空団司令兼 松島基地司令の杉山政樹空将補はホームページで、「我が松島基地も津波の被害を受け、被災当初はほとんどの基地機能が失われました」との述べ、「災害派遣活動に全力を挙げて邁進しました」など、自慢話に終始し、敗戦には頬かむりしている。

杉山政樹空将補言い方を変えるべきである。

「我が松島基地も敵(津波)の攻撃(被害)を受け、襲撃(被災)当初はほとんどの基地機能が殲滅さ(失わ)れました」と。

原発の事故処理を巡って、経産省の一部官僚は責任を取って辞職をしている。当然、防衛省と自衛隊もこの度の敗戦に伴う処分があって然るべきであるが、話題にすらなっていない。


http://www.mod.go.jp/asdf/matsushima/shirei.html
第4航空団司令兼 松島基地司令 空将補 杉山 政樹

我が松島基地も津波の被害を受け、被災当初はほとんどの基地機能が失われましたが、隊員諸官の献身的な奮闘により被災地の中心における空輸拠点としての活動を早期に回復させ、統合任務部隊の隷下部隊として全国各地から集結した隊員とともに関係自治体並びに関係機関等と連携し災害派遣活動に全力を挙げて邁進しました。

その間今回の震災にあたり、全国各地の多数の方々から賜りました貴重なご支援、ご声援には言葉に尽くせない感謝の気持ちで一杯です。

自衛隊までが「想定外」を言い訳にするに至っては何をか況やだが、東電でさえ「想定外」の無責任を厳しく批判され、津波対策を喫緊の課題として取り組んでいる。

防衛省、松島基地からは、敗北責任と共に津波に対する対策・検討が全く聞かれない。くどいが、三陸一帯は津波のメッカ、さらには航空自衛隊で海岸線に面した基地は全国に点在する。

地震国の日本は365日、24時間にわたって、その危険に晒されている。今にも、明日にも何時来てもおかしくない。自衛隊は未だ、この津波対策は全く講ずる気配がなさそうである。松島基地は「想定外」の津波で、また航空機を全滅させるのであればこれほど無責任もない。

以上、残念ながら、これが我が国軍の実態である。この実態は何も自衛隊ばかりではなく、日本人を含め日本列島全体を貫く宿痾となっている。

そしてこの無惨な実態を周辺諸国のシナ・朝鮮は克明に観察しているのである。


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